穴ぼこ生活

穴ぼこの空いた数だけ書き記すお気楽ブログ。穴ぼこ人生ここに極まリ!

音楽の価値は永遠なのか?

ちょっと前の出来事なんだけど、偶然にも同じ日に音楽を取り巻く昨今を象徴するようなニュースが流れてきた。

米ギター、ギブソン苦境 若者ロック離れ、エレキ振るわず

エレキギターの「レスポール」シリーズなどで世界的に知られる米楽器最大手、ギブソン・ブランズ=キーワード=が経営不振に陥っている。若者のロック離れなどで主力のエレキギターの販売が振るわず、オーディオ機器にも事業を広げたが、膨らんだ債務が重荷になっている。数々の名ギタリストが愛用した老舗ブランドは、かつてない苦境に立たされている。
3月6日配信 朝日新聞デジタル

タワーレコード創業者ラス・ソロモン氏死去 92歳

米楽曲小売りチェーン「タワーレコードTower Records)」の創業者、ラス・ソロモン(Russ Solomon)氏が4日、カリフォルニア州サクラメント(Sacramento)の自宅で死去した。92歳。家族が地元紙に明らかにした。
タワーレコードは楽曲の販売にクールさを吹き込み、音楽カルチャーに大きな影響を与えた。しかし、ネット通販の台頭によって米国では廃業に追い込まれた。
3月6日配信 AFPBB News

オヤジ世代はもとより、かつてタワーレコードで働いていた経験のある穴ぼこオヤジからすれば、なんとも残念なニュースでしかないのだけれど、音楽がアナログ時代からデジタル時代に変化したことを意味する、偶然ではなくむしろ必然のニュースではあるんだよなぁ。
タワーレコードのコーポレイトボイスで有名な「NO MUSIC, NO LIFE. 」というキャッチコピーがあるけど、皮肉なことに仮にタワーレコードが無くなったとしても、人々の暮らしにとって音楽はずっと欠かせない存在であり続けはするだろうけど、残念ながらCDやエレキギターは必ずしも欠かせない存在では無いという話。
まぁ、こういう時代の流れを予感してたからこそ、タワーレコードを辞めて音楽の仕事から距離を置くことにした穴ぼこオヤジではあったのだけれど、その後、世の中の方から距離を置かれる羽目に陥るという穴ぼこな予感までは、さすがに無かった...(爆)

ちなみに、穴ぼこオヤジがタワーレコードで働いていた頃は、丁度、本家アメリカのタワーレコードから独立をする前後で、その後、米タワーが倒産したこともあって、結局、件のラス・ソロモンと会う機会は無かったのだけど、彼の生み出した自由なスピリッツが、会社の隅々まで行き渡っていたのを感じる日々ではあったよね。

そもそも、日本のタワーレコード1号店からして、札幌で本国に無断で勝手にタワーレコードと名乗って営業していた店を、日本進出の際にむしろ都合がいいとばかりに、その店と正式な契約を交わし1号店として創業させたという、あまりに自由過ぎるエピソードからスタートしてるし(笑)
まぁそんな歴史から始まっているだけあって、それぞれのお店はおろか、スタッフが自由奔放に働ける会社だったので、個性的な売り場を作りが許される環境が多様性を生み出し、それが当時のタワーレコードの魅力へと繋がっていたように思う。

とはいえ、穴ぼこオヤジがレコード会社時代にタワーへ営業に行っていた時は、それなりに売れるCDでも、バイヤー(仕入れ担当者)が気に入らなければまったく置いてもらえなくて難儀してばかり(逆に気に入れば、無名のタイトルでも大展開してもらえたけど)だったし、その後、レコード会社を転職してタワーレコードの本社で働くようになった時は、各店舗やスタッフの協力を得るプロジェクトがあっても、まったく相手にされなくて閉口していたなんてもことも、ざらにありました。
それこそ当時は、全店の売り上げやらヒットチャートやらもリアルタイムかつ一元管理できるシステムが存在してなくて、あろうことか、経営に関わるシステムの運用までもが勝手気ままな会社だったんだよなぁ(笑)

思うに、そんな自由によって生み出される非合理性や、不効率で無駄とも思える手間暇の中にタワーレコードの魅力が宿っていたとも言える訳で、独立以降、CDの販売不振と相まって会社の株主も入れ代わっていく中で、経営の効率化や集中化が求められるようになっていき、もちろんビジネス的には当然の流れではあるのだろうけれど、一方で、個性的な売り場やスタッフを失い、それこそラス・ソロモンが築き上げたタワーレコードにしかなかった魅力が徐々に失われていっているように感じるのは、決して穴ぼこオヤジだけじゃないと思うよね。

そもそも、音楽を創るにせよ、CDを売るにせよ、かような無駄、即ち手間暇を掛けているからこそ、音楽データが記録された単なるプラスチック盤に、文化的な付加価値が加えられ、それが音楽の魅力となってリスナーに届けられていると思うのだけど、かような手間暇を排することが、IT化やデジタル化の意味することなのだとしたら、この先の音楽に文化的な価値を見出していけるのか否か、正直、不安を覚えるざるを得ない。
そういった意味でも、レコード会社やCDショップが生き残る為に、特典商法に手を染めるのは避けられないことなのかもしれないけど、でもそれって、音楽から文化的な価値を自ら捨てているに等しい行為でもあり、結局のところ、自分達で自分達の存在価値を弱めていくことにもなっていっているのではと、穴ぼこオヤジとしては強く思う次第。

まさにタワーレコードを辞めたのも、そんな音楽業界の流れが加速していく中で、ふと自分がCDを買わなくなってきたことに気付き、そして、そんな自分が音楽CDを作って売る仕事をしていることに、どうにも矛盾を感じるようになってしまったことが大きかったからなんだよね。
実際、音楽の仕事から離れた今でも、タワーレコードでCDを買うことなんて、ホント無くなっちゃってるし...、だけども、その一方で、なぜだかディスクユニオンだけには今でも足が向くんだよなぁ(笑)
まぁ、中古盤漁りが習慣化しているというのもあるだろうけど、思うに、タワーレコードから失われつつある音楽の魅力を、ディスクユニオンに見出そうとしているのかもしれませんな。

ちなみに、先日、そんなディスクユニオンでの物色に穴ぼこ嫁を付き合わせていた時、「オジサンのお客さんしかいないね」と穴ぼこ嫁に呟かれたことが(汗)
確かに言われてみれば、いつ行っても、肩を寄せ合いながら黙々と棚を漁っているオジサン達の姿がしか見当たらず、自分もその光景の中に溶け込んでいるのかと思うと、我ながらドン引きしそうになってみたり(笑)
まぁ、フジロックも中年率がやたら高いとか言われてるし、冒頭に触れたニュースが指し示しているように、まさに溝が横たわっているかの如く、世代間における音楽に対する価値観のギャップが、時代の変化と共に顕著になってきたということでもあるんだろうね。

それこそ音楽の接し方や楽しみ方は人それぞれなので、オヤジはオヤジなりに楽しんでいればいいんだろうけど、音楽から文化的な価値が失われ、単なる消費の対象物としてお手軽に扱われていく時代の趨勢を眺めていることだけしかできないようで、なんとも歯がゆい。
まぁでも、IT化やデジタル技術の進歩が既存の文化を駆逐していくようなケースって、何も音楽に限った話しじゃないし、それ以外でも、例えばショッピングモールやコンビニエンスストアが商店街の文化を奪っているなんてのもあるし...
てか、そもそもの話し、タワーレコードの出現自体が、街のレコード屋の存在を奪ってきたというのもあるし、でもって今度は、アマゾンや音楽配信の登場によって、タワーの存在が脅かされそうになってるとは、なんたる皮肉。

ちなみに、ここ数年、タワーレコードの業績で数億円の赤字が続いてるみたいで、昨年度に至っては赤字額が30億円へとさらに悪化した様子で、アイドルオタクの人達がネットでざわついていたらしい。
非上場企業なので決算の中身までわからないからなんとも言えないけど、本当に業績が悪化の一途を辿っているのだとしたら、かなり厳しい事態だね。
まぁ、ドコモとセブン&アイが株主なので、ガタつく赤字額ではないだろうけど、かつての新星堂HMVの身に起きた、閉店縮小、身売りというストーリーがちらついては来るよなぁ。
何より、そんな話題が、アイドルオタク達の間でしか交わされてないのが、タワーレコードの置かれている現状を表しているようで、OBとしては淋しいかぎり。
もはや、アイドルオタク達以外に、タワーレコードの身を案じてくれる音楽ファンはいないのか?

“NO BUSINESS, NO MUSIC.”――タワーレコードは生き残れるのか
2016年08月18日 HARBOR BUSINESS Online

経済効率を高め、世の中が便利になっていくことは決して悪いことではないけれど、物質的豊かさを追い求めるあまり、文化的な豊かさを失ってしまっていては、心豊かな暮らしは望めないとも思えるのだけど、果たしてどうだろう。
今や、技術革新がデフレ不況を下支えしているような社会の構図が出来上がってしまい、音楽文化とビジネスの良質なバランスが崩れていく中で、音楽は、その価値を失うことなく、これからも僕らに豊かな暮らしを与えてくれる存在でいてくれるのだろうか?
なんかとりとめもなく、長々と書いてしまったけど、音楽と自分の身に関わるニュースに接して、色々と思いを巡らせる穴ぼこオヤジなのでした。