穴ぼこ生活

穴ぼこの空いた数だけ書き記すお気楽ブログ。穴ぼこ人生ここに極まリ!

寛解で乾杯

地元の婦人科クリニックで紹介されて穴ぼこ嫁が受診した某大学病院の医師から大事な話があるとのことで、付き添っていったのが今から5年前の夏の日のこと。
そもそも、気になる症状がありながら、なんとなく診察に行くのを後回しにしていた穴ぼこ嫁のお尻を叩いて、婦人科クリニックへ行かせた挙句の話だったので、さすがの穴ぼこオヤジも、あまりよろしくない状況であることは覚悟をしていたつもりだった。

そして大学病院で告げられた診断結果はステージ1の婦人科系の「がん」。
まぁ、心の準備はしていたので思ったより動揺することは無かったのだけど、当然話はそれだけでは終わらず、すぐに入院して抗がん剤を投与し、がん細胞を小さくしてから手術を行うので、今すぐにでも手続きを行うように迫られ、途端に二人で混乱したのを覚えている。
要は冷静を装っていただけで、やれ抗がん剤だの手術だのウィッグだのと、病名を受け止める暇もなく治療の話が慌ただしく続き、いきなり厳しい現実をつきつけられて、心のバリアが崩れていく他なかったんだよね。

でもって、有無も言わせてもらえないあまりの展開の速さに、その場では結論を出すことができず、診察を終えたその足で、近くのファミレスへ逃げるように駆け込み、二人して途方に暮れたのだっけ。
ところでそのファミレスなんだけど、実は偶然にも仕事中によく通る場所だったりで、今でも店の前を通ることがあって、あの時の息が詰まるような記憶が時々蘇りそうになることも。
ただし穴ぼこ嫁は、そのファミレスに立ち寄った記憶は全く無いのだそうな。

今にして思うと、動揺の理由は「がん」の告知を受けたのはもちろんなのだけど、こちらの心情にお構いなく一方的に対応を迫られたり、穴ぼこ夫婦の目を見て話してくれない担当医の態度だったりと、病院に対する不信感がなんとなく募ったこともあり、結果的には、これが穴ぼこ夫婦が身を託したいと思える病院を探す契機にもなったという点で考えると、なんとも不思議な巡り合わせを感じざるえない。
もしこの時、この病院の言われるがままに診てもらっていたら、果たして穴ぼこ嫁は、今こうしてアホ面全開な寝姿を穴ぼこオヤジに披露することは出来ていたのだろうか?


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それからというもの、必死で病院を探し出すと、幸運も重なって今の主治医に辿り着いた訳なんだけど、ただしそれは、がん治療における単なる通過点でしかなかった。
というのも、手術直前に受けた精密検査で、まさかの転移が発覚。
そんな訳で、当初、4時間で終わるはずだった手術は7時間以上に及ぶ大手術となり、最終的には4か所にがんが転移していたものの、なんとか手術は無事に終了。
ところが、ほっとしたのも束の間、術後は合併症に悩まされてしまい想定外の長期入院、でもって、やっとこさ退院したら今度は自宅での介助、看病の日々。
それでも、ようやく容態が落ち着いてきたと思ったら、今度は抗がん剤という重い決断に迫られ、そして始まったおよそ半年に渡る抗がん剤治療。
いやはや現実は過酷だ。


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本当に次から次からへと難敵が現われ、時に耐え、時に抗い、そして時に泣きながら、時に励まし合い、とにかく必死で精一杯の日々だった。
それこそ、穴ぼこオヤジからすると、この時の記憶の方があまり残っていないかも。

そんでもって、手術、抗がん剤治療という大きなハードルを越えたとしても「がん」という病気はこれで終わる訳ではない。
常に、再発、転移というリスクがつきまとい、定期検査が近づく毎に体調を崩す穴ぼこ嫁、でもって検査結果の知らせは、さながら最後の審判のよう。
なんとか希望を見出そうとしても、つい最悪の事態が脳裏に浮かんできてしまい、気がついたら、喪主の挨拶を考えている自分がいたりしてハッとしたなんてことも。


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それでも、1日が過ぎ、1週間が過ぎ、1か月、1年と、時が経つにつれて回復していく穴ぼこ嫁の生命力の強さには驚かされてばかりだった。
経過観察に入ると、やがて仕事にも復帰を果たし、まぁ完全に元に戻ったとまでは言えないけれど、昔と変わらぬ生活を彼女が送れるようにまでなるとは、告知を受けた時には想像すらできなかったね。


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そうして迎えた5年目の定期検査での検査結果は、いずれも異常なし。
ってそう、「がん」に詳しい人ならご存知だと思うけど、がん患者にとって、治療開始から5年の間に再発や転移が無かったことの意味はとてつもなく大きい
というのも、がんという病気は再発や転移のリスクが介在していることから、治療を終えても「完治」とは言わず「寛解」という言葉を用いるのだけど、その中の大きな目安が治療を開始してからの5年なんだよね。
要は、この5年の間に再発や転移による「がん」が認められなければ、医学的にはがん細胞が存在していないと推認できる状態となり、経過観察による治療を終えることができるのだ。


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そんな訳で、穴ぼこ夫婦も、まずはこの5年を生き延びることを大きな目標として、これまで過ごしてきたのだけど、今年の夏、遂にその節目となる5年の歳月を迎えることができたのでした。
とはいえ、稀に5年以上経ってからでも再発するケースはあるので、完全に心配が無くなったということではないのだけれど、それでも再発リスクが劇的に下がった安心や喜びは計り知れない物があるよね。

穴ぼこ嫁よ!よくぞ生き抜いてくれたぞな!!

改めて、長きに渡り治療に携わってくれた主治医や病院と、穴ぼこ夫婦の親を始めとする家族、親族には感謝の気持ちで一杯。
そして、これまで励ましや心配をしてくれた穴ぼこ夫婦の友人や知人の皆さんへ、ここに寛解の報告をさせてもらうと共に、この場を借りて心よりお礼をお伝えする次第です。

我々、穴ぼこ夫婦に携わっていただいた皆様、本当にありがとうございます!
皆さんのおかげで、元気になることができました。
今後とも、穴ぼこ夫婦をどうぞよろしくお願いします。

ということで、まさに命の恩人でもある主治医に診てもらうのは、悲しくも?嬉しくも?ひとまずこれで終わりということで、そんな、お世話になった主治医の先生とお別れになる最後の診察での出来事。
先生に5年分の感謝とお礼を穴ぼこ夫婦で精一杯伝えて、診察室を後にするべく、穴ぼこオヤジが部屋の扉を閉めて廊下に出ようとした時、閉まりかけた扉の向こう側で...

「本当に良かった...」

と、独り言のように呟く先生の姿が垣間見えたんだよね。
なんか、思わずジーンと来てしまって、いやいや、こちらこそ本当に素晴らしい主治医と巡り合えて良かったと、目頭を押さえるのに必死だったよ。
と同時に、やはり先生からしても、彼女の治療は決して平坦な道のりではなく、相当深刻な病状だったんだろうなと、そしてそこからの驚異的な回復でもあったんだよなと、改めて思い知らされる呟きにも聞こえたよね。


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入院中に穴ぼこ嫁を励まそうと買ったお守り。今も我が家を見守り続けてくれている。


そんな訳で、穴ぼこオヤジからしても、穴ぼこ嫁に4ヵ所の転移が分かった時は数年の命を覚悟したし、退院してからも、彼女が体調を崩す度に再発の二文字が頭をよぎったりと、ずっと心配の絶えない5年間でもあったのだけど、ただ一方で、その5年の間にでも「がん」に対する医療は元より、社会の理解が進んでいることも実感することが多くて、色々助けられたり、色々学んだりしたことで、期せずして「がん」を深く知ることにもなりました。

恐らく、これからの時代「がん」は、忌み嫌う病気ではなく、医療の進歩と共に「がん」と付き合いながら治療を行う病気になっていくのだと思う。
そもそも「がん」は自分の細胞が生み出しているものでもあるしね。

ただ、がん治療に接した当事者として、難しいなと感じるのは、その時々で最適な治療を行ったとしても、必ずしも最善の結果が得られる保証はないという事。
仮に5年生存率が80%のがんだったとしても、願いが叶わない20%のがん患者が必ず存在することも現実な訳で、当事者にとっては単なる数字の話でしかなく、それこそ早期発見、早期治療が必ずしも効果的でないケースもあったりで、要は例外の多い病気でもあるのが「がん」なんだよね。

一方で、そういった現実を前に、抗がん剤についても同じことが言えるのだけど、特にネット時代の影響で、ネガティブな医療情報や臨床例の乏しい民間療法、ニセ医学が蔓延る現状には強い憤りを感じて仕方がない。
ちなみに、がん治療には「標準治療」なる、それぞれの病状に適した、保険対応の治療法が確立されているのだけど、中には、かような危うい情報に惑わされて「標準治療」を受けずに、無駄にお金や寿命を使ってしまうがん患者が後を絶たないんだよね。
不安に駆られて、不確かな情報に飛びついてしまう気持ちも分からなくはないけど、結果的には、弱みに付け込まれているだけの話で、誤った判断に陥るリスクを高めているようにしか穴ぼこオヤジには思えない。
特に「がん」は時間との戦いに強いられることも多いので、尚更、冷静かつ客観的な判断が必要なんだけど、残念ながら、標準治療が上手くいった多くの症例よりも、上手くいかなった少数の症例の話の方が、人々の印象に残りやすい面もあるので、なかなか難しいところではあるよね。
結局、一次情報やエビデンス*1を必ず確かめながら、自身のリテラシーを高めて、情報を取捨選択していくしかないということ。
不安から逃れたり、奇跡を信じたいとする感情のバイアスをいかに取り除いて、冷静かつ客観的に判断していくのかが重要なんだと思う。

ちなみに、個人的に思うのは「標準治療」という呼称が、あらぬ誤解を招きやすい気もしてみたり。
そもそも「標準治療」とは、これまでの臨床によって確立された、多くのがん患者が助かる確率が最も高い治療法な訳で、だからこそ保険適用で受けられる治療法にもなっているのだけど、人によっては「標準」以上や「標準」以外の治療法があるように思えてしまうらしい。
だったら、いっそ「高生存率治療」とかにでも呼称を改めたら、余計な治療に惑わされる患者が少しは減る気もするのだけど、どうだろうね。


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「希望と覚悟」


これ、彼女が、がん治療中だった時に穴ぼこオヤジが書き残していたメモにある走り書きの一説。
我ながら解説すると、現実を受け入れた上で、可能性を信じようってことかな。
思い返せば、先の見えない治療生活を支える自分に、そして辛い治療を行っていた穴ぼこ嫁に、幾度も言い聞かせていたことを思い出す。
あと、どの道、人間は致死率が100%の生き物なのだから、と開き直ったりもして、気を楽にさせようとしていたこともあったっけな。

そもそも、人間とは死を抗うことはできない生き物な訳で、詰まる話、どう死ぬかってことは、裏を返せば、どう生きるかってことでもあり、まさにコインの表裏と同じように、人生における「希望」と「絶望」は隣り合わせの存在なのだと思えるようになったんだよね。
恐らく、それが生きる「覚悟」ということなのかと。

もちろん「がん」になんか、ならないに越したことはないのだけれど、一方で、実際に「がん」になったことで芽生えた「覚悟」によって、多くの気付きを穴ぼこ夫婦にもたらしてくれたのもまた事実。
まぁ、未熟な穴ぼこオヤジからすると、失ってからでないと気付けない事があまりに多くて、一体今まで何をして生きてきたのかと、己の愚かさを嘆きたくもなるけれど、少なくとも、穴ぼこ嫁の命だけはまだ失われずに済んだということは、まさに「希望」であり、即ち、二人で穴ぼこ生活が続けられるありがたみを噛みしめながら、そんな「希望と覚悟」を携えて、これからも過ごしていきたいと思う次第。


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とまぁ、なんか5年分の思いの丈を書いてたら、随分長い前置きになっちゃったけど、そんな新たな門出を祝しつつ、穴ぼこ夫婦の両親への感謝も兼ねて、先日、穴ぼこ夫婦が結婚式を挙げた、まさに二人にとっての最初の門出の地でもある「横浜うかい亭」でランチをしてきたので、最後にその時の様子も。



横浜の住宅街に佇む「うかい亭」


ちなみに、この日はちょっとしたハプニングがあって、最初に通された鉄板付きの半個室に備え付けられている換気用の空調から「ジジジ~」と断続的な異音がしていたので、お店のスタッフに訴えてみたところ、どうもメンテナンスの不具合ということらしく、急遽、別の席を用意してもらうことに。
で、しばらくして準備が整ったとのことで、スタッフに案内されるがままに新たな場所へ移動すると...




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そこには、大広間の中に大型の鉄板付きのテーブル席が鎮座する立派なお部屋が!
ってそう、いわゆる「VIPルーム」ってやつですな。
そんな訳で、予想外のアップグレードに、テンションもアップ!
お蔭で、皆でゴージャスなランチタイムを堪能することができました。


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フワッと仕上がった至極のガーリックライス
これが作れるようになって、ようやく一人前のシェフなのだそう


ちなみに、今回は穴ぼこオヤジがご一行を招いていたので、もしやお値段もグレードアップ?!と、実は内心冷や冷やしていたのだけど、VIPルームはサービスでした。
つっても、通常のランチ代だけでもハイグレードなお値段はするんだけどね(爆)
あと、穴ぼこ夫婦の両親が座っていた席は、かつて黒澤明ジョージ・ルーカスが座っていた席なんだそうな。
いずれしても、新たな門出を、皆で贅沢な時間を過ごしながら祝うことができて、ホントに良かった。


ということで、穴ぼこ嫁が「がん」を患ってからというもの、これまでは今だけを見て、頑張ってきたつもりなのだけど、5年が経ったことで、これからは、先を見ながら穴ぼこ生活が続けられるギフトを貰ったようなもんで、こんなにもありがたい話はないよなぁと、しみじみ思う穴ぼこオヤジ。
ただねぇ、せっかく先のことを考えてもいいようになったのに、いざ世の中を見渡してみると、どうにもお先真っ暗な感じがしちゃうのって、なんざんしょ。
まぁそんな時代だからこそ、まさに「希望」と「覚悟」を持って、穴ぼこ生活を歩んでいくべしってことなんだろうね。


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*1:医学的根拠